カキカキ
千歌「………あーもうっ!!」
グシャグシャッ!!
私の目の前にはすっかりぐしゃぐしゃにくたびれた歌詞ノートが置かれている。何回も書いては消してを繰り返したから、鉛筆の粉まみれで灰色みたくなっちゃった
千歌「うぅ~……」ガシガシ
もう三日間もこんな調子だよぉ……。書いては消して、また書いては消して。全然前へ進めてない
千歌「……」
スタスタ
千歌「ほぅっ!」トイッ!
逆立ちしたらアイデアが生まれるって誰かが言ってた気がするから試してみたんだけど、全然何も閃きそうにない
千歌「とうっ!」スチャッ!
もちろんY字バランスをしても、ヨガのポーズをしても、なーんにも浮かんで来はしなかった
千歌「……」
むむむ、いったいどうすれば……
千歌「……うわぁ!!」ツルッ
ドッシーン!!!
千歌「いててててて……」
美渡「こーらー!千歌!うるさいぞー!!」
千歌「……」
美渡「ちーかー?」
千歌「はーい!わかってる!!」
千歌「……もう、せっかく頑張って考えてるんだから、邪魔しないでよね」プンプン
千歌「…………だめだぁ~!!」グデー
なーんにも閃かないっ!!頭の中真っ白だよ!!まるで新品の自由帳みたいに!!
千歌「んぅ~……」
千歌「……」
……やっぱりあれだ。こういうのって、才能、な気がしてるんだよね
ぱーっ!と閃いちゃうような人ってきっと頭もいいんだろうし、だからすぐに歌詞だって書けちゃうんだろうなぁ……
千歌「……だって私、天才じゃないもん。イッパンジンだもん」
千歌「……」
千歌「はぁ……」ゴロン
千歌「……」
~♪
千歌「……?」
隣のお家から聞こえてきたのは、すっごく透明な澄んだメロディ
梨子ちゃんっていうのは私のお家のお隣に住んでる可愛い女の子で、もう天才級にピアノが上手い
それこそ世界で通用するんじゃないかってくらい
だから私は、今でもそんな娘がAqoursに入ってくれるなんて奇跡なんじゃないかなって思ってる
だって自分で言うのもアレだけど、私たちただの田舎のスクールアイドルだもんね、あはは……
千歌「……」
千歌「……そうだよね、梨子ちゃんだって頑張ってるんだよね」
梨子ちゃんだって頑張ってくれてるんだ。それに、私だってAqoursのリーダーなんだよね
だから私も頑張らないと!そう思って強くシャーペンを握りしめる
千歌「……」
ペンを握って、いざ書こう!とするのはいいんだけど……
だけど……
千歌「……」
カキカキ
千歌「……むぅ!!」
ケシケシケシケシ!!!!
肝心のコトバは、ちっとも浮かんでは来ませんでした
先生「枕草子、方丈記、そしてこの徒然草は『日本三大随筆』と呼ばれており……」
千歌「はぁ~……」
教科書で先生からは見えないように隠しながら、私は小さくため息をついた
だって全然わかんないんだもん。昔の人が書いた名作?とか説明されてもわかんないよ
千歌「……」
それに私はゲンダイジンだし?昔の人の気持ちなんて勉強したって意味ないし
振り返る暇なんてないって、μ’sだって言ってるじゃん
ペラッ
千歌「……」ガシガシ
机の中にこっそり閉まっておいた歌詞ノートを取り出してみても、やっぱり文字は書かれてない。誰かが代わりに書いといてくれればよかったのに
千歌「……」
真っ白いページから目を背けようと顔を挙げたら、たまたま前の方に座ってる梨子ちゃんのことが目に入った
千歌「梨子ちゃん……」
ねえ知ってる?梨子ちゃんってね、ほんとすごいんだよ?
だって授業も真面目に受けてるし。あとね、座る姿勢がピン!ってしてるの
まるでどこかのお嬢様みたい。仕草も全部大人っぽいし……ほら!今の髪を直す仕草とか!
立てばナントカ座ればナントカ、高嶺に咲いてる百合と梨子ちゃんって言葉、前にどこかで見たことある気がするんだけど、ほんとにそんな感じなの
どうしてあんなに、いつも綺麗にいられるんだろ……別に授業中なんて誰にも見られてないから、何してたってよくない……?
千歌「……」
梨子ちゃんはいつだって自分に嘘をつかない。そういうところ、すごくカッコイイなって私は思う
千歌「……私も、頑張らないとなぁ」
千歌「……!!」フルフル!!
だめだめ弱気になっちゃ、Aqoursのためにも私が一番シャキっ!としないと!!
でも、頑張るって言っても私は何をすればいいんだろ……?
千歌「……」
先生「古典、と呼ばれている作品にはこのように、今なお研究が続けられているものが多数あります」
千歌「……?」
先生「きっとそれだけ大切なことが描かれていて、現代に生きる私たちにも共通する観念が眠っている。だからこそみなさんも……」
千歌「……」
……そっか、そうだよね
梨子ちゃんだって前に言ってた気がする。音楽っていうのは歴史があって、その上で今の梨子ちゃんの曲ができてるんだって
千歌「なるほど……」
……確かに。じゃあ勉強って大事かも。私に足りないのってそういう事なのかな?
千歌「……よーし!!」
ガタッ!!!
千歌「私!!勉強する!!勉強するよ!!昔の人の文章たくさん読んで!!いっぱいコトバ身に着けるっ!!」
千歌「やるよ私!!やるったらやる!!」
先生「……」
ツカツカ
先生「……高海さん」ペシッ
千歌「あいたっ!」
先生「勉強するのは結構ですが、今はまだ授業中です。他人の勉強の邪魔になることはしないように」
千歌「は、はーい……」
梨子「……?」
ガラガラッ!
千歌「花丸ちゃん!!」
花丸「ずらっ!?千歌ちゃん!?」
花丸「どうしたの?図書室に用事?」
千歌「ううん!花丸ちゃんに用があったの!!」
花丸「マルに、用事?」キョトン
千歌「ねえねえ花丸ちゃん!!オススメの本教えて!!」
花丸「本……?千歌ちゃんが?どうして急に?」
千歌「もっといい歌詞書くために!!そのためにはもっともっとたくさんの言葉を知らなきゃいけないなって思ったの!!」
花丸「なるほど……それはいいことだと思うずら。本はたくさんのことをマルたちに教えてくれるからね」
千歌「でしょでしょ?というわけで!本!!教えて欲しいな!!」
花丸「……どういうのがいいの?」
千歌「えっとね……名作って言われてるやつ!あと読みやすいの!!」
花丸「名作、読みやすい……だったら……」
花丸「……」スタスタ
ヒョイ
花丸「これとかいいんじゃないかな?」
千歌「……?」
花丸「短いけど内容があって、考えさせられるものになってるんだ。きっと千歌ちゃんに新しい考え方とかを教えてくれるんじゃないかな?」
千歌「……?」
千歌「……ああ!私の旅館に関係ある
花丸「それは太宰治ずら」
千歌「へ?……し、知ってたよそれくらい!!私だって旅館の娘だもん!!」
千歌「とにかく花丸ちゃん!この本借りていくねー!!ありがとっ!!」
花丸「あっ……」
タタタッ
花丸「……」
花丸「……ホントに大丈夫かな?」
千歌「よーし!!これで私も天才の仲間入りだよ!!」
千歌「花丸ちゃんによると世界的に有名な作品なんだよね!!そんな本読めたら、私ももっといい歌詞思いつけるようになっちゃうかも~!!むふふふふふっ!!!」
千歌「ではさっそく!!勉強させて頂きます!!まずはこのお話から……
ペラッ!
………
…
千歌「……」
ペラッ
千歌「……あ、これで終わりなんだ」
千歌「なんかよくわかんなかったなぁ……」
……これ、ホントに世界的な名作なのかな?私には全然わかんないんだけど
だって別に自業自得って感じじゃない?主人公の人って超極悪人なんでしょ?蜘蛛一匹助けただけで地獄から救われる方がおかしくない?
それに私、クモ、あんま好きじゃないし
千歌「……ま、いっか」
千歌「とにかく!今の私がやるべきことは!今の経験を歌詞に活かすことだよ!!」
千歌「見てろよ歌詞ノート!!賢くなった高海千歌が!!綺麗な言葉を書いて見せるんだからね!!」
カキカキ!!
千歌「とうっ!とうっ!!」シュパッ!!
………
…
千歌「……」
ケシケシケシケシ
千歌「……だめだぁ~!!!結局何も進んでない!!」
本読んでもなーんにもアイデア浮かんでこなかったじゃん!!誰だよ!!勉強すればいい歌詞思いつくとか言ったやつ!!
だいたい私はもとがバカなんだから!!そんな手っ取り早く天才になれるはずないでしょーがっ!!
千歌「ばかばかばかばか!!私のバカ!!」ポカポカ
美渡「バカバカうるさいぞ!!バカチカ!!」
千歌「うっさい美渡姉!!バカっていう方がバカなんだよっ!!!」
あーもう!!なんで!!なんで私には歌詞の女神様は微笑まないんだよっ!!
千歌「うぅ~っ!!!」ジタバタ
他のスクールアイドルはあんなにもいい曲作ってるのに!!どうして私だけできないんだよっ!!
千歌「はぁっ……はぁっ……」
放り投げた歌詞ノートはくるくるって空中を舞って、借りてきた短編集の近くに舞い降りた
千歌「……あーあ」
……やっぱり昔の人ってすごいや。だって自分の作品が、紡いだコトバが、花丸ちゃんに、梨子ちゃんに、ううん、ちゃんと私の胸にも届いてるんだもん
これってやっぱりすごいことだと思う。だってそんなに簡単な事じゃないんだよ?みんなに届くコトバを書けるのって
私にはまだできなくて、μ’sも、他のすっごいスクールアイドルの人たちはできていて
私だっていつかそこまでたどり着きたいなって、ずっとそう思ってる、思ってはいるんだけど
千歌「……」
ゴロン
千歌「……」
……私だっていつか、たくさんの人にコトバを届けられるようになるのかなぁ?
千歌「……」
~♪
隣の家からの透き通った音色は、今日も私の部屋に聞こえてくる
梨子ちゃんの音色ってね、いつもすーって私の中に溶けてくるんだよ?すごくない?
聞いてるだけで、ああ、これが梨子ちゃんの気持ちなんだな、伝えたい想いってきっとこういうことなんだなって手に取るようにわかっちゃう。音楽だけでそんなのまで伝えられちゃうなんて、やっぱり梨子ちゃんはすごいや
私はコトバを作る役割だけど、言葉を使えるんだとしても、梨子ちゃんみたいに上手く表現できない
だって私は、まだそんな域には達してないんだもん。私はまだ普通の女子高生なんだから
きっと世の中には素晴らしい表現っていうのがどこかにあって、さっきの短編集もそうだけど、みんなそれをずっと探し続けてるんだと思う
その中でほんの一握りの人たちがスターになって注目されて、スポットライトに照らされて……
……きっと、今の梨子ちゃんみたいに
千歌「……」
千歌「……!!」フルフル
千歌「……よし!もう一回!!」
千歌「もう一回!!もう一回読み直してみたらきっと!!何か浮かんでくるはずだよ!!」
負けるわけにはいかないよ!!私!!梨子ちゃんの本当のパートナーになりたいんだもん!!私だってAqoursのリーダーなんだもん!!
そしてなにより!!私だってコトバで人を感動させられる人になりたいっ!!梨子ちゃんみたいに!!
千歌「よーし!!負けないよっ!!」カキカキ
頭では何も考えてないんだけど、なんにもわかりゃしないんだけど、とにかくペンは強く握りしめた
ガラッ!
千歌「し、失礼します……」
土曜日の図書室には誰もいない。でもこれなら集中して調べものに取り組めそうっ!!
千歌「えっと、あれはどこだっけ……」
千歌「……」キョロキョロ
千歌「……あ、あった!類語連想語辞典!!」
私、自分で表現力を磨かなきゃって思ったの。だからきっとこの本は役に立ってくれるはず!!
千歌「えっと、使い方は……」
ペラッ
千歌「ふむふむ、まずは調べたい言葉で索引を使って……」
千歌「えっと……」
千歌「……」
千歌「……あれ?」
私の調べたい言葉って、いったい何……?
千歌「????」キョトン
千歌「……」
千歌「……ああっ!!そもそも何書きたいかすら決まってないんじゃん!!」
どんなこと書くか決めてないんじゃ!!辞書だって使いようがないじゃん!!
千歌「さ、さすがに歌詞の内容、教えてくれはしないよね……?」
千歌「……」ペラペラ
千歌「だめかぁ~!!!」
本を読んでもだめで、言葉を調べようにも上手くいかなくて。私の頭じゃこれ以上のやり方なんて思いつきそうにない
千歌「あーあ、私の頭って私が思ってる以上に空っぽなんだなぁ……」
もしも、もしもだよ?私が天才的に頭が良かったら、こんな問題、一瞬で片付いちゃったりするのかなぁ……?
千歌「……」
千歌「……帰ろ」
千歌「えっと、あと私に出来ることは……」
千歌「……」
……散歩、とか?
有名な漫画家さんはお話を考えるために近所を散歩してるって聞いたことある。あと美渡姉に借りた漫画にもそんなこと描いてあったし
じゃ、じゃあ、私もそうしてみるしかないのかな……?
千歌「……そうだよね、歌詞がなんにも思いつかないんじゃ、どうせこの後暇だもんね」
千歌「とりあえず……どっか行ってみよっと」
千歌「……あ、もうすぐそこ家じゃん」
気づいたら家の近くまで帰って来ていた。私、無意識に帰りたいって思っちゃったのかな……?
……ううん、そんなことない。きっと私が来たかったのは、こっちじゃなくて
千歌「……」チラッ
海。苦しい時もつらい時も、いつだって私たちを見守ってくれた内浦の海。なんとなくだけど、あそこに行ってみたい気がしたのかもしれない
千歌「……?」
あれ……?
千歌「梨子ちゃん……?」
遠目で見てもはっきりわかる。あの可憐な座り方とか優しい雰囲気とか。あんな爽やかな空気感を出せる女の子なんて、私の知ってる中だと梨子ちゃんくらいしか思いつかない
千歌「おーい!!梨子ちゃーん!!」タタタッ!
ローファーの中に砂が入っちゃうのもお構いなしに、私は砂浜へと駆けだした
梨子「えっ!?千歌ちゃん!?」
千歌「り~こちゃん!!海ばっか見つめて、何してるの?」
梨子「……」
千歌「……梨子ちゃん?」
梨子「……」
千歌「……あ、ごめん。答えづらかったら答えなくていいよ」
千歌「私もよく志満姉に『この前のテストどうだったの?』って聞かれて何も答えられなくなる時あるもん!あはは、あはははははは………」
千歌「……」チラッ
梨子「……」
ズシャッ
千歌「……り~こちゃん♡」ギュッ
梨子「わっ……」
千歌「えへへ~♪」
こういう時は、出来るだけ梨子ちゃんに寄り添ってあげたいって思ってる。だって私が梨子ちゃんにしてあげられることなんて、これくらいしかないもんね
それに梨子ちゃんは神童?ってやつなんだろうし、梨子ちゃんなりの、梨子ちゃんだけの悩みがあるってことも、私はもう理解してるつもり。一応これでも高校二年生だし
だからこそ私がそばにいられたらなぁ~って思ってるんだけどね
もっと近くで感じていたいんだよ?私は、梨子ちゃんの全部を
千歌「……」
梨子「……あのね千歌ちゃん」
千歌「なーに?」
梨子「……」
千歌「……」
梨子「……私ね、ちょっとだけ今、迷ってるんだ」
梨子「うん。私の音楽のこと」
梨子「私だけの音色って何だろうって、ずっと考えてたの」
千歌「……」
あれ……?
なんだろ、なんかどこかで聞いたことある気がする……
……ううん、私、多分知ってるの、この気持ちを。名前はまだわかんないけど
梨子「私ね、昨日もおとといも、ずっと作曲のこと考えてたんだけどね」
梨子「もっといい音色ないのかなって、これが本当に私が奏でたかったハーモニーなのかなって、ずっと迷ってたんだ」
千歌「……」
……すごい、おんなじだ
梨子「お部屋でピアノに向かってたんだけど、弾いてるうちによくわかんなくなっちゃって……それで気分転換に、海でも見てみようかなって……」
千歌「……」
千歌「……梨子ちゃんでも迷ったり、悩んだりすること、あるんだ」ポカーン
千歌「へ?い、いやぁ~……だって梨子ちゃんってすっごくピアノ上手だし……そ、それにいっつも梨子ちゃん!!すっごく滑らかにピアノ弾いてるじゃん!!」
千歌「だ、だから梨子ちゃんにはもやもやとかくよくよとか、そういうものとは縁がないんじゃないかなぁ、って……」
梨子「ううん、そんなことないよ。むしろ千歌ちゃんより優柔不断なんじゃない?ほら、私って元はうじうじした性格だし……」
千歌「……そっか」
梨子「うん、そうなの」
千歌「……そっか!!」
タタタッ!!
梨子「千歌ちゃん?」
千歌「なんか嬉しい!!梨子ちゃんとおんなじ悩み抱えてるってこと!!」
千歌「ねえ梨子ちゃん!ひょっとしたら私たちってすっごく似てるんじゃないかな?」
梨子「え?どういうこと?」
千歌「生まれも育ちも違う私たちがこんなにも心を通わせられてるってことが!!やっぱり奇跡だっていうこと!!」テクテク
千歌「ねえ梨子ちゃん!!あのね!!だからね!!やっぱり私、梨子ちゃんのことが—
梨子「千歌ちゃん!?後ろ!!ちゃんと見て歩かないと……危ないっ!!」
千歌「へ?……うわぁぁぁ!!!」ツルッ!
バッシャーン!!!!
梨子「だ、大丈夫!?千歌ちゃん?」
千歌「う、うん、びしょびしょだけど……うへぇ~……」
梨子「……ふふふっ♪」
千歌「あっ!ひっどーい!!梨子ちゃん笑ってる!!絶対私のことバカにしてるでしょ!!」
梨子「ううん、してないよ。ただちょっと千歌ちゃんらしいなって思っただけよ」
千歌「え~、私らしい~?なにそれぇ~?」プクー
梨子「うふふっ♪そうやって気持ちがつい心の外にすぐ出てきちゃうところが、やっぱり千歌ちゃんなんだなぁって♪」フキフキ
千歌「……」
私、らしい……
千歌「梨子ちゃん……」
梨子「千歌ちゃんがそうやって素直に、心から溢れる純粋な想いを表現してくれるから、きっと私も、自分の気持ちと向き合ってあげられるのかなって……」
千歌「……」
心から出る、素直な気持ち……
梨子「……うん!!千歌ちゃんのおかげで、なんかまとまった気がするわ。ありがと、千歌ちゃん♪」
梨子「じゃあ私は、お部屋にもど
千歌「それだよっ!!!」ガバッ!
千歌「それだそれだそれだそれだっ!!!私に足りなかったものって!!私の探してたものって!!きっとそういうことだったんだよ!!」
梨子「え……?千歌ちゃん、何か探しもの
千歌「ありがと梨子ちゃん!!全部梨子ちゃんのおかげだよっ!大好きっ!!」
千歌「梨子ちゃんも頑張ってね!!私もいっぱい頑張るから!!お互い頑張ろーっ!!」
梨子「あ、うん……」
タタタッ!!
梨子「千歌ちゃん……?」
思い浮かんでは消えて行った黒ずんだページの隣、まだ真っ白なページの上に、一本のシャープペンシルをそっと置く
千歌「……よーし!!書くぞ!!」
梨子ちゃんが教えてくれたから、私のコトバをやっと見つけたから
だからもう私、迷わないよ!!だって光が見えたんだもん!!
千歌「……」カキカキ
きっと!!きっと私でいいんだよね!!私のコトバでいいんだよね!!
伝えたいのはこの想い、届けたいのはこの気持ち。私はずっと、この心を歌にしてみたかったんだ
素直な気持ちはここにある。あとはそれを乗せればいいんだよ!きっと作詞って、そういう事なんだと思う!!
飾らなくていい、泥だらけだっていい。へたっぴでも、めちゃくちゃでも。だってそれが私のコトバなんだもん
私の心から出る、私の、私だけのコトバなんだもん!!このコトバを届けられるのは世界中にただ一人、私だけなんだからね!!
私なんて天才じゃなくて、きっと上手くは書けないんだろうけど……ううん、それでもいい。この想いが誰かに届いたのなら、誰かと分かち合えたのなら、この子たちだって幸せなんじゃないかな?
千歌「……」カキカキ
心が歌いたがってるって、こういう事を言ってるんだと思う、きっと
そう信じながら私は、ただひたすらに、白いページを文字で埋め尽くした
千歌「……で、できたぁ~!!!」
千歌「やっと!!やっとだよ!!私だけの新しい曲!!」
梨子ちゃんみたいに綺麗には書けなかったけど、不格好でぐちゃぐちゃでおんぼろなのかもしれないけど
でもこれが私のホンキなんだ。私の心が叫びたがってる、本気の私の気持ちなんだ。誰かに伝わって欲しい想いなんだ
だから、こ、これでいい、んだよね……?
千歌「……」ソワソワ
早く、早くあの娘に見てもらいたい。そして出来れば褒めて欲しい、すごいなって言われたい、この気持ちを共感してもらいたい
千歌「あーあ、早く明日にならないかなぁ……」ワクワク
千歌「……えいっ!」
ピンポーン!
千歌「……?」
ピポピポピンポーン!!
梨子「……はーい」
ガチャッ
梨子「もう、そんなに鳴らさなくても
千歌「り~こちゃん!!」ダキッ!!
梨子「ち、千歌ちゃん、朝から苦しいよ……」
千歌「ごめんごめん~、嬉しくってつい~」タハハ
梨子「歌詞……」
千歌「えへへ~、すごいでしょ?褒めて褒めて!!」
梨子「……読んでみてもいい?」
千歌「うん!もちろん!!」
梨子「じゃあ……」
ペラッ
千歌「……」
梨子「……」
梨子「……うん、すっごくいいと思うわ。あとはここからブラッシュアップしてけば
千歌「うぇぇ!?一発オッケーじゃないの!?」
梨子「もちろんよ、だってそれじゃあ曲にならないでしょ?」
千歌「ま、まあ、そうかもだけど……」
梨子「でもね……」
ギュッ!
梨子「私はすっごく好きだな、この歌詞。なんか千歌ちゃんらしさがたくさん詰まってる気がして」
梨子「なんか言葉では表現しづらいんだけど……そんな感じがする」
千歌「……うん」
梨子「だからね、私はすっごく好きだよ、千歌ちゃんの作った歌詞」
千歌「えへへっ、ありがとっ!」
タタタッ!!
シュタッ!!
梨子「千歌ちゃん……?」
千歌「あのね梨子ちゃん、私ね、私って私ひとりで出来上がってるんじゃないって気づいたんだ!」
梨子「……?」
千歌「梨子ちゃんがいて、みんながそばにいてくれてるから、今の私がここにいるってこと」
みんなに支えられてぶつかりながら、迷いながら探したコトバの結晶が、そのノートに詰まってるんだと思うんだ
きっとそれが私だけの、私たちだけが作ることが出来る、世界に一つだけの歌詞ノートってことなんじゃないかな?
梨子「……そうね」
ギュッ
梨子「だから千歌ちゃんの歌詞って、こんなにも心を温かくできるんだと思うわ」
千歌「えへへ~、そうかなぁ~?」
梨子「そうよ、私が言うんだから間違いないの」
千歌「……そっか」
梨子「うん!絶対そうなの!!」
梨子「わかってる!!今行ってくるからっ!!」
梨子「ほら千歌ちゃん、早くしないと遅刻しちゃうよ?」タタタッ
千歌「あ、うん!!」
でもね梨子ちゃん、梨子ちゃんは知らないかもしれないんだけどね
私だってねこんなにも、梨子ちゃんと出会えてよかったって思ってるんだよ?
私、梨子ちゃんに出会えてよかった。お隣にお引越ししてくる人が、梨子ちゃんであって本当に良かった
梨子ちゃんに出会えて、私の中にコトバが生まれて、それが繋がって気持ちになって、みんなの中に広がっていって……
だから梨子ちゃんってホントにすごい。空っぽだった私の中を、色鮮やかにカラフルにしてくれたんだもん
だからね、私、そんな梨子ちゃんのことが—
千歌「……」
千歌「……?」
千歌「……」
千歌「……あっ!!」
梨子「どうしたの、千歌ちゃん?」
私ね、もう一つ見つけちゃったかも。心から溢れる素直なコトバ
ずーっと言おうと思ってたけど、照れくさくて奥の方にしまってた大切なコトバ
きっと今なら言えるよね、たった一つの、伝えたかったこのコトバを
千歌「……あのね梨子ちゃん」
梨子「なーに?」
千歌「……♪」
千歌「えへへっ♪」
梨子「………?」
千歌「いっくよー!!」
タタタッ!
ハグッ!!
梨子「わわっ!?急にどうしたの?」
千歌「りーこちゃん!!」ギュッ!!
梨子「ち、千歌ちゃん!?」
千歌「あのねあのね!!聞いて欲しいの!!行くよ!!」
お腹の中に新鮮な空気を思いっきり吸い込んで、胸の中の純粋な気持ちを、力いっぱい吐き出した
千歌「私たち!ずーっとずっと!大親友だよ!!」
やっぱりちかりこは難しいです…
千歌ちゃん!お誕生日おめでとう!!
千歌ちゃんのキャラが千歌ちゃんぽくて素敵
海辺のシーン!マーク連発でせつ菜連想しちゃってちょっとワロタ
チカリコいいね
よかった
ちかりこちゃん可愛い
良かったよー
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